「五感」とはどんなもの?
オトマナビ講師の昆真由美です。
「五感」という言葉がありますね。人間のもつ感覚を下記の5つに分類したものです。
・視覚(目で物を見る感覚)
・聴覚(耳で音を感受する感覚)
・嗅覚(鼻で匂いを感じる感覚)
・味覚(舌などで物の味を感じ知る感覚)
・触覚(皮膚で感じる感覚)
音楽は、基本的に「聴覚」を刺激します。それとともに、歌詞も「耳から入って」「聴覚を刺激」します。歌詞カードやカラオケ、歌番組などで歌詞を見ながら音楽を聞く場合は視覚も同時に刺激しますね。
そのため、歌詞では「耳ざわりの良い」言葉を使う意識をすることが基本です。耳ざわりの良い言葉を選んでいくと、自然と歌いやすい言葉になっていることも多いです。
歌詞そのものは聴覚、視覚を刺激しますが、実は歌詞の中にはそれ以外の感覚「嗅覚」「味覚」「触覚」も表現されることがあるのをご存じでしょうか?
嗅覚、味覚、触覚を歌詞に織り込む
歌詞では、場面設定をするために「見えるもの」を意識して書くことが多いです。そのため、視覚を織り込むことは自然にできても、嗅覚、味覚、触覚を織り込むのは、はじめは意識をしないと難しいかもしれません。
味覚を織り込んだ歌詞としては下記のようなものがあります。
・「最後のキスはタバコのflavorがした」(宇多田ヒカル『First Love』)
・「真夜中のコーヒーショップ 甘い甘いグァバジュース」(ポルノグラフィティ『グァバジュース』)
・「苦いようで甘いようなこの泡に くぐらせる想いが弾ける」(あいみょん『今夜このまま』)
味覚を表現するには、心情にリンクするアイテムを使うことが多いといえるでしょう。ちなみに、3つめの『今夜このまま』は、ビールのことを表している歌詞。とても素敵な表現ですね。
触覚を織り込んだ歌詞としてはたとえば下記。
・「ホッペも鼻もカンカクない つま先ジンジンしちゃってる」(広瀬香美『ゲレンデが溶けるほど恋したい』)
・「体感温度ガンガン上がる」(『真剣SUNSHINE』Hey! Say! JUMP)
このように、季節を感じる楽曲で、暑さや寒さを表す時に使うこともあります。
また、下記のように、人と触れた時の感覚などで使われることも多くなっています。
・「忘れてしまいたくて 閉じ込めた日々も 抱きしめた温もりで溶かすから」(YOASOBI『夜に駆ける』)
抱きしめたり手をつないだりというシチュエーションで、肌が感じるあたたかさを表現すると、触覚に訴える歌詞になりますね。
「嗅覚」がスパイスになったヒット曲
嗅覚を表現した曲として印象的な2曲があります。
まず、米津玄師さんの「Lemon」。2018年にリリースされ大ヒットした楽曲です。2019年のJASRAC賞で金賞を3冠受賞するなど、さまざまなランキングを総なめにし、ロングヒットとなっています。
サビに登場する
「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」は、まさに「嗅覚」を刺激するもの。
言葉を聞くだけで、匂いを思い起こさせますね。
面白いのが、2020年にTikTokから大流行を巻き起こした瑛人さんの「香水」も嗅覚を刺激するサビだということ。
「君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」
この曲においては、「ドルチェ&ガッバーナ」の部分の印象的な耳ざわりの方が目立ちますが、これも実は嗅覚を刺激するつくりになっています。実際に香水の香りを思い浮かべられないとしても、香りで過去を思い出すという経験はおそらく誰にもあること。そのため、主人公への共感度が高まるといえるでしょう。
五感はヒット曲のさりげないスパイスになる
もちろん、上記2曲の大ヒットにはそれぞれ様々な理由がありますが、嗅覚をサビで表現したことがヒットのさりげないスパイスになっているように思います。歌詞の中で五感を使うことは、一見目立たないですが、聴き手に曲の雰囲気を伝える大きな役割を担うことがあります。ヒットを支える縁の下の力持ちのような働きをするのかもしれません。
他にも、ヒット曲の歌詞に五感が登場することは少なくありません。たとえば、
・「その髪に触れただけで 痛いや いやでも 甘いな」(Official髭男dism『Pretender』)
こちらは触覚と味覚が同時に使われています。五感というよりは心の感覚を五感のように表現しているものですが、「痛い」と「甘い」が同時に出てくるのが面白く、インパクトを生んでいます。
・「指の混ざり 頬の香り 夫婦を超えて行け」(星野源『恋』)
こちらも触覚と嗅覚を想像させる言葉が並んで出てきますね。
このように、ヒット曲の中にもさりげなく五感が使われていることがわかります。
歌詞を書くときに、五感を刺激する表現を入れることを試してみてはいかがでしょうか。きっと「ひと味違った」歌詞が出来上がるはずです。
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